論理学と自然言語 

目次


第1章 論理学の基礎

第2章 自然言語と命題論理

第3章 正しからざる文

第4章 自然言語と述語論理

第5章 日常会話における非論理性

第6章 言語の背景としての数学モデル



参考文献

はじめに

2007年6月  著者:中村八束 ・ 野口光孝



 論理学は本来日常会話の中で真理を求める学問であったはずなのですが、J.Boole が論理学の研究からブール代数(Boolean Algebra)を提案して以来、論理学は美しい数学分野として認められ、かつコンピュータ技術の重要な基礎的学問となりました。
 論理学というとBoolean Algebraのような数理的分野であると思われる傾向があります。
 なお論理学を取り巻くもうひとつの環境変化として 数学を形式的に記述し、コンピュータでその論理的正しさを自動的にチェックできるシステム、プルーフチェッカー (Proof Checker)の出現が挙げられます。
 その代表的システムがA.Trybulec等によるMizar(ミザール)で、2007年の現在、正しさが保証された約1000篇の数学論文をデータベース化しています。  その成果をみると多くの分野の数学における複雑な記述が、厳密に論理的になされていることが分かります。特に数学者が意識に昇らせない数学的常識(Mathlore, Lore は伝承的知識のこと )までもが明示的に記述できています。その最大の象徴的業績は著者等が行った、Jordan曲線定理の完全証明でしょう。
http://markun.cs.shinshu-u.ac.jp/mizar/jordan/jordancurve-e.html
 Jordan曲線定理というのはまさにMathloreの固まりともいえる定理です。閉曲線が平面を丁度2分割するという定理命題そのものも常識的だし、いくつかあるというそれの証明中にも論理的でない常識的事実がいたるところに並んでいました。それを最初から最後まで完全に論理的に証明できたわけです。
 多くの分野の数学がそのように完全に論理的に記述できる、ということは物理学や化学や数理的経済学や工学全般などもそのように記述できる可能性を示します。更に多くの分野で厳密な記述が可能になると思われます。
 ここで論理学の原点に戻って、この数理的論理学の成果を日常会話レベルの自然言語の研究に役立ててみたいと思います。それは自然言語研究でもあると同時に、我々の日常的思考方法の研究でもあります。
 その研究は相手の矛盾をついて議論で勝つためではありません。そうではなく、会話や思考の背後にある真実を探すためのものです。それは人間を無意識の中だけで動いてる動物レベルから、より進んだ知性的存在に高めることになります。
 このCAI(学習用ソフト)はそんな方向の一助になれば、と願います。
 なお第1章の「論理学の基礎」は、第2章以降を理解するために必要な予備知識です。そのため第1章はこのCAIシリーズにある「論理学」からの抜粋で作られています。深く学習する場合は「論理学」のCAIを全て読んでください。また、論理学の基礎知識(命題論理、述語論理に関して)を持っている場合は、第2章から始めてかまいません。